【世界ウィスキー時評】『アメリカンシングルモルト』の夜明け…

アメリカンシングルモルトを作るデンバー・ストラナハンズのハイブリッド式蒸留器。(写真は同蒸留所へ訪問して撮影)

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Pot Still Loverです。今回のコラムはアメリカの酒の情報を発信しているSeven Fifty Dailyの内容を踏まえた考察です。最後に、ジャパニーズウイスキーの定義についても触れます。

記事はこちら。

 

記事によるとアメリカのシングルモルトの定義を確立するべく、2016年に同国内の60のモルトのみを原料としたウィスキーを作る蒸留所等が集まって、”American Single Malt Whiskey Commissions (ASMWC)”を設立したそうです。

 

ASMWCが2017年に行ったパネルディスカッションによると、

  • アメリカでは、バーボンやライ等の伝統的なウィスキーの定義は連邦法で明確
  • しかしモルトのみを原料とするウィスキーについて定義は不明確
  • そこで、地域も伝統も異なる各蒸溜所が喧々諤々と協議をし、多くの内容をスコッチウィスキーに倣って原案を作成中

とのこと。

以下、ASMWCのサイトよりその原案を抜粋しました(拙訳つき)。


MADE FROM 100% MALTED BARLEY(100パーセントモルトから作られること)

 

DISTILLED ENTIRELY AT ONE DISTILLERY(一つの蒸留所で蒸留されること)

 

MASHED, DISTILLED AND MATURED IN THE UNITED STATES OF AMERICA
(糖化、蒸留、熟成がアメリカ国内で行われること)

 

MATURED IN OAK CASKS OF A CAPACITY NOT EXCEEDING 700 LITERS(700リットル以下の樽に熟成させること)

 

 

DISTILLED TO NO MORE THAN 160 (U.S.) PROOF (80% ALCOHOL BY VOLUME)
(160プルーフ=80度より高い度数で蒸留しないこと)

※スコッチの場合は、94.8度です。

 

BOTTLED AT 80 (U.S.) PROOF OR MORE (40% ALCOHOL BY VOLUME)
(ボトリングは80プルーフ=40度より高くすること)

ここからは、記事の内容と私の蒸留所訪問の経験を踏まえ、注目したい事項3点を説明します。

 

一つ目は、蒸留設備です。スコッチは単式蒸留器(ポットスチル)のみですが、アメリカンの場合は、スチルの形式に縛りがありません。なので、単式・連続式・ハイブリッドでも何でもOKです。

 

二つ目は、熟成年数に関する規定がありません。テキサス・バルコネズでは小さい樽で熟成させるウィスキーが多数を占めており、スコッチのように3年熟成させる必要がないためです。

 

三つ目は、麦についてです。スコットランドから取り寄せられる麦は、種類が5,500種ほどある中で、品質維持の観点から公的機関が10種類に縛っているそうです。

 

アメリカンシングルモルトでは、独自性を追求するために、モルトをスモークしたり、ピート炊いたり、ローストしたりと、モルトとの向き合い方が様々です。なので、「原料がモルトであること」以外は、アメリカのモルトウィスキーの可能性を信じて厳密な定義をつけなかったんですね。

 

シアトル・ウェストランドやデンバー・ストラナハンズはローストレベルの違うモルトの組み合わせで味の深さを作っていました。
(モルトも食べさせてもらいましたが、ローストレベルが高いものはビターチョコのようでしたね…)
定義が明確になったから、とんとん拍子で進みそうですが、アメリカ大統領選挙の影響で、政策課題の優先順位が相当下げられてしまったそうです。

 

なので、今も少しずつ活動を続けているそうですが、これはもはや時間の問題でしょう。

 

ウィスキーの定義が作られるという歴史的な瞬間がアメリカに訪れることになる、と記事は締めくくってます。

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私がこのテーマをコラムに書いた理由は、やはりジャパニーズウィスキーの定義について気になったからです。

 

自らの蒸留所のウィスキーとスコットランド等の国からウィスキーをバルク(1tのポリタンク)で輸入し、それをブレンドするだけならともかく、それに漢字のラベルを貼り付けるだけで、「Made in Japan」を名乗る言語道断のウィスキーが存在する等、本当にカオスです。日本ではそれが法的に許されています。

 

『美味しければいい。何が問題か?』というと人もいるかも知れません。

ですが、日本のウィスキーの生産量はスコットランドと比べてはるかに少ないため(山崎、白州、余市の生産量を足しても、グレンフィディックにかないません…)、コストが割高となってしまいます。そのため、『美味しい』だけのウィスキーがまかり通ってしまうと、自分達で作った、もしくは現状を踏まえ自分達の原酒をブレンドしたウィスキーを駆逐しかねません。まさしく『悪貨は良貨を駆逐する』だと思います。

 

ウィスキー生産者は自らの文化や実力に見合ったウィスキーの定義を作っていくと同時に、我々消費者もウィスキーの定義を理解することが、美味しいウィスキー文化を守っていくことにつながるので、アメリカの話を対岸の火事ととらえず、動向を見守っていきたいですね。

 

ウィスキー文化研究所のメンバー中心にジャパニーズウィスキーの定義付けを行なっています。

また、海外の著名なテイスターサイトでも、ジャパニーズウイスキーの定義付けを「もっとクリアにすべきだ」という声が上がっていることも追記しておきます。

Whiskyfun.com ”Kurayoshi, with age this time” 記事はこちら。

 

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